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吉上亮『PSYCHO-PASS GENESIS 4』

アニメ『PSYCHO-PASS』の時代以前,スキャンにより人の精神を測って潜在犯を割り出すシビュラシステムが導入され始め,日本社会の構造が大きく変遷しつつある時代を書いた『GENESIS』シリーズの4作目.スピンオフシリーズ最後の作品だが,個人的にはアニメ1期から続く一連の物語の完結と言ってもいいと思うほど,この世界の真実に迫る壮大なスペクタクルである.どんな感想を言ってもネタバレになってしまうが,PSCHO-PASSシリーズ独特のストーリー展開をまた体験できて楽しかった.

登場人物の思考からアクションまで過不足なく描写する吉上さんの文章が素晴らしく,まるで映画を見ていたかのように一場面一場面,映像として記憶に残っている.本当に最高でした.

PSYCHO-PASS GENESIS 4 (ハヤカワ文庫 JA ヨ 4-9)

PSYCHO-PASS GENESIS 4 (ハヤカワ文庫 JA ヨ 4-9)

 

 

まずは,この物語の始まりである『GENESIS 3』からどうぞ.

cheeky-supreme.hateblo.jp

 

アニメ1期に登場した征陸智己の過去,厚生省と警視庁の最後の闘いを書いた『GENESIS 1・2』もオススメ.

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PSYCHO-PASS GENESIS 4

王城夕紀『青の数学』

ネット上に設けられた「E2」という空間で,互いにハンドルネームしか知らない高校生たちは数学の問題を解いて競い合う.その過程で,彼らは「なぜ数学をするのか」「なぜ決闘をせねばならないのか」と自問し,疑問をぶつけ合う.数学をバトルものとして魅せる題材の面白さとテンポの良いストーリーで,一気に読めてしまう王道の青春小説である.

バーチャルな空間での数学バトル(出題形式や闘い方も様々),顔も知らない相手からのメッセージ,絶対的な存在として君臨する天才と謎の数列,個性的なキャラクタなど,魅力的な要素が詰まっている.これを小説で描いたことがスゴいんだけど,そのうちきっとアニメか実写で映像化されるだろう.

 

青の数学 (新潮文庫nex)

青の数学 (新潮文庫nex)

 

(書評で紹介されている表紙を見て,漫画で5巻まで出ているのかと勘違いし(小説の書評は読書前に読まないので),本屋の漫画コーナーを彷徨いました)

 

出題された問題を解くという行為が果たして「数学」なのか,と読んでいてずっと疑問だったが,それについては主人公たちの周りの大人たちが代弁しているとおり,作者はわかった上で書いている.このシリーズがどこまで続くかわからないけれど(次作で完結?),「競技」としての数学ではなく,彼らが大学で「学問」として数学をするところまで見れたらいいなぁと思うが,きっと小説としての華々しさがなくなるから難しいだろう,とも思う.まぁ,そういう数学者の生き様は『フェルマーの最終定理』や『完全なる証明』などのノンフィクションに描かれているんだけれど.

 

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

 

完全なる証明―100万ドルを拒否した天才数学者 (文春文庫)

完全なる証明―100万ドルを拒否した天才数学者 (文春文庫)

 

 

とりあえず,『青の数学 2』へ続く.

青の数学2: ユークリッド・エクスプローラー (新潮文庫nex)

青の数学2: ユークリッド・エクスプローラー (新潮文庫nex)

 

 

https://www.instagram.com/p/BOKOIREBNNy/

BEAR BEER LITE

池上彰『知らないと恥をかく世界の大問題 7』

【目次】

 プロローグ 新しい帝国主義時代の到来

第1章 大転換の中心「イスラム世界」の変化と世界への波及

第2章 ヨーロッパは受け止めきれるか?

第3章 内向きになるアメリカの苦悩と巻き返し

第4章 したたか中国の戦略と東アジア

第5章 せまりくる人類共通の大問題

第6章 安倍政権の「世界の大問題」への対処

エピローグ 近代文明の逆走を止められるか

おわりに

熊本地震を受けてのメッセージ

 毎年この時期に出版されるこのシリーズの7作目,つまり7年目.副題は「Gゼロ時代の新しい帝国主義」.やはり今回の話の中心は,イスラム国と中東の国々(+アメリカとロシア).日々のニュースで国同士の関係性が悪化していること(例えば,イランとサウジアラビア,ロシアとトルコなど)はわかっても,その背景がわかっていないと唐突な印象を受けてしまう.また,どうしてイスラム国が発生し,拡大してしまった理由や各国がうまく抑えることができていない現状も,なぜだろうと感じてしまう.でも,本書でイスラム教の宗派や第1次世界大戦などの基本的なところから解説してもらえると,やっとニュースの内容にも納得であろう.というか,根が深すぎる.歴史を勉強しないといけないなぁ.

今年はこれから,アメリカでは大統領選挙,イギリスではEU離脱/残留の国民投票,日本では参議院選挙があり,本書で前もって知っておくと,これからのニュースも理解しやすいだろう.これまでの安倍政権アベノミクスについて,フェアに総括している.憲法の解釈だったり,新3本の矢だったりと都合の良いようにやっているようで.野党についてはほとんど全く書かれていなくて,唯一名前が挙げられたのがSEALsだったので心配である(池上さんが,ではなく,野党が).他人がどんな政党や政策を支持しようが勝手だけど,一応それなりに知った上で選挙に行ってほしいなって思うし,そういう意味で読んでもらいたい一冊である.

パナマ文書や熊本地震などのつい最近の話題についても書かれているし,(おそらくこの1年以内に)世界各国に取材に行ったときのエピソードもあって,筆の速さと行動力にただ単純にスゴいと思った.

1年のニュースをおさらいする内容であるが,このように世界の大問題を歴史や宗教なども含めて,基本的なところからおさらいしてくれるので,これまでの6冊もオススメ.

 

cheeky-supreme.hateblo.jp

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森博嗣『χの悲劇』

雨の中のトラム内で起こった通商委員毒殺事件.その場に居合わせたエンジニアの島田文子は,殺害前に彼から昔の飛行機事故と「x」と呼ばれる人物について尋ねられていた.ホテルの部屋に差し込まれた「χ」のカード.死体の手首に残された「x」のマーク.果たしてこれは偶然だろうか? 身の危険を感じた彼女は,安全を保証するという情報局員の提案を受け,ある仕事をすることになるが...

χの悲劇 (講談社ノベルス)

χの悲劇 (講談社ノベルス)

 

Gシリーズ10作目にして,後期3部作(背表紙のあらすじに書いてあった)の1作目とあって,時系列も主人公も一新している.

時系列については読んでいればわかるが,明言されていないので最初は違和感を感じるだろう.人間と見間違える程のロボットやヘッドセットでの映画観賞など,少し先の未来で,ちょっとしたSF感がある(と言っても『すべてがFになる』や『有限と微小のパン』で登場したバーチャルリアリティも,やっと現実が追い付いてきていて,15年以上前の作品とは思えないのだが...).Gシリーズの時系列でみても,これまでの作品からさらに飛んでいる.紅子さん,元気かな?

あらすじで島田文子さんが主人公なのを知って驚いたが,真賀田四季に関わった重要人物の1人で,とても興味深く面白い話だった.彼女も「身体」や「リアル」からの拘束を感じる,別の世界の住人である.私もカナダに行きたい.

序盤から「真賀田」や「各務」なんて固有名詞が遠慮無く飛び交うし,「金」と「χ」なんていうお馴染みのキャラまで登場して,殺人事件やら過去のことを議論して「あぁ,Gシリーズだなぁ」という感じで,終始頬を緩ませながら読んでいた.シリーズファンは必読の1冊である.

島田さんがチームを組んでハッキングする描写は,島田さんのアタマの中でのイメージを見ているようで,これまでのドラマやアニメにはない映像だった(小説だからもちろん文章なのだが,僕の脳内で映像として展開された,という意味).一番近いのは『攻殻機動隊』のハッキング場面だろうか(勝手に近づけたかもしれないが).きっと実際のモニタは文字列が入り乱れているだろうし,両手の指はせわしなくキーボードを叩いているのだろうが,そういう現実世界のリアリティよりも,ネットの攻防のリアリティが島田さんの絵描く映像として描写されている.これがとても面白く,SFっていうかサイバーパンクって感じだ(言ってみたかった).こういう「リアル」でイキイキとしている島田さんが素敵である.

タイトルは,エラリー・クイーンの『Xの悲劇』を擬えていて,Gシリーズがこの後に続く『ψの悲劇』『ωの悲劇』の三部作となるのも,エラリー・クイーンの『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』の三部作を意識しているためだろう.事前に『X』を読んでいたので面白さが倍増だった.なんてったって,雨の中のトラムの中で毒殺事件ですからね.引用するならここかな?って予想してたところは,ほとんどハズレてたけれども笑.それと,<longstreet>ってw 

Xの悲劇 (角川文庫)

Xの悲劇 (角川文庫)

 

 

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Gシリーズの目標は,真賀田四季の再解釈なのかな,なんて勝手に思う.『すべてがFになる』では,家族を殺害して隔離・逃亡した真賀田四季.殺人を犯した人間は天才でも「悪」であり,西之園萌絵の立場からすると『有限と微小のパン』での事件も合わせて,真賀田四季は悪役になってしまった.それは,読者も同じなのではないだろうか.そこに生じた誤解,ギャップのようなもの(真賀田四季と西之園,森博嗣と読者)を埋めるために書かれたのが『四季』であり,Gシリーズなのかな,なんて思う.主人公らが長年かけて(一生をかけて)ギリシャ文字の事件を追ったり,過去の飛行機事故の調査したりしてようやく,時間も空間も桁違いの天才の,当時の思考に追いつくことができる.そうやって,追い付いた先に垣間見える真賀田四季は,人間を案外信頼していて世界を良くしようとしている神様みたいな存在なのではないだろうか(Wシリーズで登場するみたいに).そして,飛行機事故の真相も本当は…なんて期待し始めている自分がいる.こんな予想や期待を裏切ってくれるであろうGシリーズ残り2作,楽しみです.

 それと,Gシリーズ番外編みたいなのも含む短編集が読みたいなぁ|д゚)チラッ

エラリー・クイーン『Xの悲劇』

雨の中の満員電車内で起こった株式仲介人毒殺事件.放蕩者の彼を殺害する動機がある関係者が何人も同乗していたにも関わらず,犯人は捕まらない.そこで警視と検事が相談しに行ったのが,趣きのある館に住む老俳優のドルリイ・レーン氏.彼には犯人がわかったようだが… 

Xの悲劇 (角川文庫)

Xの悲劇 (角川文庫)

 

推理小説では,なかなか犯人を突き止められない無能な警察の代わりにズバッと謎解きをする探偵役がいて,それは探偵に限らず,ある作品では大学の先生だったり,学生,無職の美女,美術品鑑定家の泥棒だったりする.他にもいろいろな「探偵」がいるだろう.彼ら彼女らはみな頭脳明晰で観察眼に優れ,ときには独自の方法で大胆に事件を調べ,なおかつ謎解き披露の語り口には個性や職業柄が現れる.こういうキャラクタの登場が推理小説の面白さのひとつで,それは本書に登場する探偵役のドルリイ・レーン氏についても同じである.最初はシェイクスピアなどを引用しながら語る暇を持て余した引退俳優で,もしかして安楽椅子探偵(現場に赴かずに事件を解決する探偵)なのかと思っていたが,小説を読み終えたときには頭脳・調査術・話術すべて揃ったこの人物に惹かれていてシリーズを読みたくなった.どうやら『X』に続き,『Yの悲劇』『Zの悲劇』があるようだ.

 

Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)

Yの悲劇 (角川文庫 ク 19-2)

 

 

Zの悲劇 (角川文庫)

Zの悲劇 (角川文庫)

 

(表紙が何かの参考書みたいだなぁ笑.『Z』なんてZ会にありそう...) 

 

ミステリィも当然のことながら面白かった(推理小説をあまり読まないからわからないが,これって名作って称されている?).事件の克明描写や調査で明らかになる様々な事実の中に,さりげなくヒントが隠されている.でも,事件の鍵となる証拠と同じくらい雑多などうでもいい情報もあって,それが面白いと思った(あからさまな伏線は張られていないと思った).それをひとつひとつピックアップして組み立てて考察するも良し,逆に犯人の思考をロジカルに推論して割り出すこともできるし,謎解きをに深入りせず物語の進行に任せるのももちろん良い.いろんな読み方ができる作品だろう.僕は,伏線に気付けなかったので,進行に身を任せてレーン氏の推理を聞いて,すげーって思った人です.

 

森博嗣のGシリーズの新刊タイトルが『χの悲劇』(X(エックス)ではなくギリシャ文字のχ(カイ))で,明らかに『Xの悲劇』を意識していると思われる.森作品恒例の引用文(雰囲気を盛り上げるBGMのようなもの)は,きっと『Xの悲劇』からと予想して先駆けて読んでみた次第である.『X』を未読のときよりも作品を数倍楽しめる気がしていて楽しみだ.Gシリーズはどうやら『χ』に続き,『ψの悲劇』『ωの悲劇』の後期3部作となるようだ.

χの悲劇 (講談社ノベルス)

χの悲劇 (講談社ノベルス)

 

 

吉上 亮『PSYCHO-PASS GENESIS 3』

厚生省によるシビュラ,サイマティックスキャン,犯罪係数などの導入以前を描く『GENESIS』シリーズも3作目.1と2は,アニメ1期では執行官だった征陸さんの刑事時代の話だったが,本作と次作は新しいキャラクタ,厚生省麻薬取締局の捜査官が主人公となる.本作から読み始めても良いし,アニメのPSYCHO-PASSを見てなくても,SF小説として単純に面白い.
そして,時代は2070年代.20年代に始まった鎖国政策以降の混沌とした時代を乗り越え,シビュラシステムによってようやく平安を取り戻しつつある日本,東京.しかし,その裏でテロリストたちが潜入し始めていて…みたいな感じ.

シビュラによる精神が測られる世界では,人々は自分の精神をクリアにしようと躍起になるし,犯罪者もどうにか誤魔化そうとする.だからこそ,麻薬が流行る.では,その麻薬を作っているのは…?
そして,本書はシビュラ判定の例外に属する者の物語,でもあるのかもしれない.さて,続きは4へ.

 

PSYCHO-PASS GENESIS 3 (ハヤカワ文庫JA)

PSYCHO-PASS GENESIS 3 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

本作を読んで,アニメの1期7〜10話を見返してみた.まぁ,特に驚きはなかったけれど,『GENESIS』の1と2を読んだおかげで征陸さんの言動に納得できた.それと,唐之杜さんって何か関係するのかなー

 

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​ 西加奈子『うつくしい人』

​マイナス状態の主人公が何かを通してプラスに転じる,西さんのいつも通りの作品.ただ,主人公である30過ぎの女は,小説冒頭から鬱々としていて重い.自意識過剰と場の空気を読むことで,心がもうパンパンに張り詰めている.正直,「うわっ,めんどくさっ」って思った.これについて,西さんも文庫版あとがきで次のように述べている.

『うつくしい人』を、改めて読み返してみて、「随分面倒な精神状態にあったのやなこの作者」と思いました。それ私。

対談などのメディアで見る西さんは,エネルギッシュでポジティブな印象なのだけれど,この作品の執筆に取りかかった当時はしんどい時期だったらしく,それがこの作品や主人公に投影されている.たしかに,周りの人のいろいろと観察したり,空気が読めるような人(きっと他人の嫌なところや悪意も見えてしまう人)が,どうしてあんなにポジティブなんだろう,人を好きになれるんだろうって不思議で,でも,この小説を通してなんとなくわかった気がする.
主人公が少しずつ回復したように,作者の西さんも執筆後はスッキリしたようで,読後の自分もなんか気持ちが軽くなった.無理をしなくても,変わらず今のままでも,誰かにとってのうつくしい人であれたら,それでいいよね.

ちなみに小説の舞台は,直島かどこかの島だろう.宿泊はしてないけど,たぶん行ったことがある.いいよね,あそこら辺の島.

うつくしい人 (幻冬舎文庫)

うつくしい人 (幻冬舎文庫)