西加奈子『ふる』

いつもどおりの西さんらしい小説.全体を通したフィクション的な要素によって,主人公の内面が鮮明になり,また変化の起点となる.こういう内面を書けるというが,小説の長所だろう.読んだあとに元気が出るね.

ふる (河出文庫)

ふる (河出文庫)

 

あらすじを書いてもあんまり意味ないかなって思うので,主人公の池井戸花しすを表す文だけ引用しておく.

望む前に与えられる生活が続き、いつしか花しすは、望むことをやめた。自分の希望や願望を、口に出すことが、どこかいけないこと、はしたないことのように思えた。自分の意見を言わず、大人しくしておけば、大人たちが何かしらのことはしてくれる、そう思った。(P34より)

 

花しすは、人が傷ついたとき、顔が歪むのを見るのや、流れている時間が止まることが嫌なのだった。そしてそのことに関与しているのが自分であるということが、一番怖いのだった。(P164より)

 

どぉやん.彼女だけに見える白い丸いもの.そらから降ってくるように書かれたひらがな.何気ない会話の録音.同居人と2匹の猫.女性器にモザイクをかける仕事.愛情に裏打ちされた蔑み.新田人生.

 

「ヘルメッ!」

「じゃかましわ。」

 

司馬遼太郎『新装版 王城の護衛者』

佐幕と勤王,攘夷と開国が入り乱れる混沌とした幕末が舞台の短編5作.

あえて,短編それぞれの主人公の名前をここでは書かない.

表題作の『王城の護衛者』の主人公は,愚直なまでに天皇に仕え,天皇の唯一の頼みであった会津藩主.本当に「誠」の字のような人で,政治がわからず,薩長の策略と幕府の敗走に翻弄されていく,その一生が書かれている.この短編はオチが良い.読者も行く末を知っているから,なんとなく暗い終わり方になることは予想できる.実際,数年の間に薩長との形勢が逆転し,京都・大阪からの退陣,そして,その後の幕府からの酷い扱いは後味が悪い.それでも,オチが良ければ全て良し,とまでは言わないけれど,一矢報いるような終わり方で,それが良かった.これがなかったらこの短編も存在しなかったのではないだろうか?

2作目は『加茂の水』で,主人公は良く言えば仙人みたいな,読んだ印象を率直に言えばホームレスみたいな人.でも,後に岩倉具視の腹心となり,文才と学殖を発揮する.良い悪いは置いといて,錦の御旗や勅書に関して,この人のやったことは凄い.『王城の護衛者』を読んだ後だったから尚更に唖然としてしまった.こんなことで幕府は,会津藩は撤退させられたのか...と.

3作目『鬼謀の人』は,医者で西洋の兵学にも通じていた男の話.自藩である長州藩に見向きもされていなかったけれど,桂小五郎に才能を認められ,長州征討・戊辰戦争で指揮を務め,活躍する.才能はあるけれど,人付き合いは上手くない.それで恨みを買って暗殺されたとかなんとか.

4作目『英雄児』では,長岡藩のひとりの家臣がここぞとばかりに藩の軍備を増強し,旧幕府軍と新政府軍が対立している中で中立を保ち,調停を試みる.この家臣,江戸にいたときは勉強もろくにせずだらしなくしていたのに,藩政に関わり始めるとその読みがなんとも当たるものである.凄い.

 5作目『人斬り以蔵』では,天誅として多くの暗殺をした志士の一生が書かれている.師匠である武市半平太との主従関係では「犬」にも例えられて,畏怖によって抑えられねじ曲がった関係が物哀しい.実力を認められても所詮は足軽,剣は優れていても思想がない.本人は正義があるつもりでも,武市からは認められない.切ない.

新装版 王城の護衛者 (講談社文庫)

新装版 王城の護衛者 (講談社文庫)

 

どの作品も,教科書に名を残すほどではなくとも,将軍や天皇,新政府の官僚となる人達の陰で重要な役割をした人物が主人公である.みなそれぞれ激動の時代の中で翻弄され,藻掻いている.それぞれの考える国のあるべき姿はもちろん違っていて,それがまさにその時代そのものなのだなと感じた.視点のバランスがとても良かった.

森博嗣『彼女は一人で歩くのか?』

森博嗣の新刊です.以上,終わり.

うん,それでいいと思う.森博嗣先生の作品は,振れ幅がけっこうあって,理系ミステリィ作家と呼ばれていた(いる?)けれど,それ以外にもSF,ハードボイルド,チャンバラ小説も書くし,分類不能な作品も多い.『スカイ・クロラ』や『ヴォイド・シェイパ』と『ZOKU』や『工学部・水柿助教授の日常』を,同じ作者が書いてるってすごくないですか? 最近だと『実験的経験』と『赤目姫の潮解』の振れ幅,すごくないですか?

なので,講談社タイガという新しいレーベルで,森博嗣が新しく書いた本ぐらいの情報だけで,「これってミステリィなのか? それとも言葉遊び系か?」といろいろ考えながら,ハラハラしながら読んでみてはいかがでしょうか?

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宮藤官九郎『NHK連続テレビ小説 あまちゃん 電子版完全シナリオ集 全26巻セット』

今さらだけれど,とても面白かった.たくさんの人がハマったのも納得の脚本でした.放送も一応全部録画しているはずなんだけれど,一度に見ると毎回のオープニングと回想シーンが多くて(毎日1話ずつ見る人には良いんだけど)ちょっと飽きちゃうんだよね.ということで,脚本だったらそういうこともなく一気読みでした.

まぁ,ふつうに面白かったとしか言えないし,この場面があーだこーだと言うのは他の人がとっくの昔にやっていると思うので,個人的に印象に残った台詞をいくつか引用して,レビュー終わりです. 

春子「田舎がイヤで飛び出したヤツって、東京行ってもダメよね。逆に田舎が好きな人って、東京行ったら行ったで案外うまくやれんのよ、きっと。結局、場所じゃなくて、人なんじゃないかなって、最近思う」

自分も田舎が嫌で東京に出てきた人なので,耳が痛い...

 

大吉「出だ!宮沢賢治、岩手の人間、宮沢賢治こすり過ぎ!! だいたいちゃんと読んだごどありますか?

まぁ,岩手といえば,最初に宮沢賢治があがりますよね.盛岡に住んでたことあるけど,読んだ作品は5冊くらい,かな.そんなもんです.

 

ユイ「自然がいいとか海がキレイとか、東京から来た人が言うのは分かる。でも私は言えない、だったら私は都会が好き。ビルが好き。地下鉄が好き。ネットカフェが好き……行った事ないけど。だから行きたい。この目で見たい。地方出身者でも、同い年の子とか、年下の子とか、ぜんぜん頑張ってるし。チャンスがあれば明日にでも出て行きたいよ」

こういう感じ,わかるなぁ.ユイちゃんの東京への憧れや春子さんの腫れ物扱いの感じは,山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』にも共通していて,田舎特有の感覚なんだろうなぁ.

 

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アキ「現実は辛えな」

忠兵衛「お互いにな、行ったら行ったで何とがなるんだが、行ぐまでが辛え」

その通りだな,って.

 

甲斐「悪いようにはしないって、悪い奴のセリフだよね(笑)」

これも,うん,たしかに,って.

 

鈴鹿「向いてないのに続けるっていうのも、才能よ」

ええこと,言いますやん,って.

 

栗原「サカナクション?」

さかなくんが北三陸駅に登場したときのボケ.

 

夏「歌っても歌わなくても、津波の事は頭がら離れませんがら、どうぞお構いねぐ」

震災後の(被災地以外の)いろいろな自粛ムードに対して,こう感じていた方も多いんじゃないかなって思います.被災地の人はそんなことより必死で前を向こうとして,少しでも元気だそうとしていて,実際は「不謹慎だろ」とか言ってる邪魔してるのは外野にいる人のような気がしています.その気遣いって正しいのかな,と.

 

 

 

 

 

 

 

堀江貴文『刑務所わず。 塀の中では言えないホントの話』

堀江貴文氏の1年8ヶ月間に渡る刑務所生活のラスト数ヶ月の日記.『刑務所なう。』『刑務所なう。シーズン2』と本書を合わせて3部作らしい.獄中生活はきっと誰でも多少は興味あることで,自身が収監されることを良いことに,日々の生活と時事ネタを有料メルマガでリアルタイムで配信するなんて,毎度のことながら面白いことを考えますよね.本書は,それをまとめたもので,検閲で書けなかったことも書かれているらしい.

 

 

理不尽に厳しくて,意味のないことを延々とやらされ,怖い人達に囲まれながらの生活を想像していたけれど,本書を読むと少し拍子抜けしてしまうくらいだ.まず,当然のだが「意味のないこと」なんかではなく,受刑者はいろんな仕事を与えられる.ゴルフのピン(?)とか果物のネットとかを作る仕事である.堀江さんは「我が社」と呼んでいたし,自身も「社長」と呼ばれていた.作業報酬(月々5000円と少し)も出るようで,堀江さんはその10倍の額を栄村に毎月寄付していた.一方で,パソコンなどのデジタル機器がないために非効率な作業があったり,組織が体育会系で上下関係が厳しかったりする面もあって,ストレスフルな生活だっただろう.

仕事と食事,睡眠だけの生活ではなく,意外にもお菓子と映画,朝ドラに関する話題が多いし(逆に言えば,ほとんどの楽しみはそれだけなのだが),勉強や読書の時間も取れるようで,悪く無いじゃんとも思えてしまう.なんて印象を持ってしまうのは,生活に慣れた時期だからであって,収監直後の『刑務所なう。』を読んでみるとまた違うのかもしれない.あとがきにもそんなことが書かれていた.

 

刑務所なう。 完全版 (文春文庫)

刑務所なう。 完全版 (文春文庫)

 

 

人について言えば,周りの受刑者の人は,ちょっと変わった特徴が描写されながらもごく普通の人.刑務官も(理不尽に)厳しそうなイメージがあったけれど,普通の人で世間話をしたりもする.漫画や映画を基に想像されるイメージとは違っていて,逆に現実味がある.それと暴力団関係の人がその刑務所にはいなかったというのもありそう.また,外からは様々な著名人が面会に訪れており,2ちゃんねるの元管理人のひろゆき氏や茂木健一郎氏などとの会話も掲載されている.このような面会人や日記のネタからも交友関係が伺えるし,刑務所での生活ではそれが支えになるらしい.
非日常的な生活を覗いてみるには良い本で,おもしろかった.

殊能将之『鏡の中は日曜日』

 

鏡の中は日曜日 (講談社文庫)

鏡の中は日曜日 (講談社文庫)

 

 

推理小説を推理する小説,と言えばいいのだろうか.いわゆる本格ミステリーというものが(おそらく)苦手な自分にとっては,こういうメタな視点で描かれている作品はとても面白いと感じた.ちょうど3週間ぐらい前に読んだ推理小説である綾辻行人十角館の殺人』に(勝手に)期待し(勝手にがっかりし)たことは,この作品で実現されていたのでとても満足したである.しかも,この作品の参考文献には綾辻行人氏の『十角館の殺人』を含む作品が掲載されていて驚いた.自分が『十角館の殺人』の次に『鏡の中は日曜日』を読んだのは,まったくの偶然なんだけどな.

 

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 とある主人公視点の描写される1章も面白いところだ.まったくの情報不足の中で疑問を感じながらも読み進めていくうちに,主人公と全体像がだんだんと明らかとなってくる.そうやって,気付いた頃にはこの世界にハマっている.

殊能将之氏の作品を読むのは『ハサミ男』に続いて2作目.前作,本作も,真実が語られたときの爽快感がとても好きだ.「うわぁ,やられた!」っていうヤツね.ということで他の作品も読もうと思う.

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綾辻行人『十角館の殺人』

謎の殺人事件のあった無人の島を訪れた推理小説研究会のメンバーたち.単純な好奇心から始まった合宿は,殺人予告とも取れるメッセージから不穏な空気に包まれる.特徴的な館,移動と連絡手段の途絶,行方不明の容疑者,死人からの手紙,などなど推理小説の要素をこれでもかと盛り込んでくる.王道のミステリーが好きな人は,楽しめるのかも.

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

十角館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

 

 物足りなかったのは,推理小説研究会のメンバーであれば,このような推理小説に出て来るような要素を,メタな視点で一蹴するのかと期待していたのだが,完全に「中の人」になってしまった点.研究会のメンバー同士で著名な推理小説家のニックネーム(「アガサ」や「エラリイ」など)で呼び合っていて,それも彼らの頭脳明晰さへのハードルを上げてしまったのだが,実際はただの大学生だった.関連してもう1点挙げると,登場人物たちが事件について話し合うときに,二言目には動機探しをするのには,どうにもついていけなかった.いやいや,それで犯人扱いしたらダメでしょ,もっと他に考えるべきことがあるじゃん,ってね.まぁ,登場人物がアタマ良過ぎたら,犯罪できないけれど.

途中から飽きて作者の意図を探りながら読んでしまった.何から目を逸らさせたいのだろう?と.もっとその世界に入り込める推理小説が読みたいなぁ.