増井元『辞書の仕事』

出版社で30年以上,辞典の編集に携わってきた著者のエッセイ.辞典は小学校から使うし,今もiPhone大辞林には世話になっているのだけれど,その編集に関わる人というのは何だか別の世界の人のような気がしていた.めちゃくちゃ偉い人が1つ1つ意味を書いているのか,もしくは出版社の社員が総出で1冊をまとめているのかな,ぐらいに考えていた.いや,実はどんな人がどんな風に載せる言葉を選び,その解説を書いているかなんて,今まで想像もしたことがなかった.

本書から想像した筆者の印象は,「言葉」について相談したら何でも付き合ってくれそうな気のいいオジサンという感じ.「言葉」に関するエピソードは豊富で,薀蓄話を面白く語っている.また,言葉の乱れとそれに対する辞書の役割,「かがみ」の話などは,個人的にとても興味深かった.

ことばの専門家は概してことばの変化に寛容です。ことばが変わるのは当然のことだと考えるからでしょう。近頃の日本語は乱れている、などという声は、必ず専門家ではないところから発せられます。(P38)

いや、ことばの変化に対する辞典編者の立場は、 なかなか複雑・微妙なもののようです。実のところ、「変化」をただ客観的に記述しているばかりではない、無意識にか意識的にか、受け入れがたい「変化」には抵抗しているのではないか、辞書作りの現場で編者の仕事に触れていると、そんな気配を感じることがあります。(P39)

個人的には今まで辞書を,模範である「鑑」として絶対視し過ぎていたところがあるけれど,現在の「生きている」言葉を映す「鏡」でもあることを知って,辞書のイメージが変わった.人間臭い部分もあって,それでも良いのかな,と.

辞書の仕事 (岩波新書)

辞書の仕事 (岩波新書)

 

 

【目次 】

はじめに 

第一章 辞書の楽しみ 

第二章 ことばの周辺
第三章 辞書の仕組み
第四章 辞典編集者になりますか
第五章 辞書の宇宙へ

あとがき